料理研究家 宮崎里恵さん(後編)

おしゃれでクリエイティブな料理教室は 毎日を楽しくする情報交換の場としても大人気! TEXT by 鈴木麻由美 PHOTO by 三浦健司

*宮崎里恵さんが自宅を開放して料理教室を始めたきっかけや、人気の秘密について教えていただいた前編。ここからは、食の知識豊富な宮崎さんの情報源が明らかに!

人間関係を大切にしつつ、日々の勉強も欠かさない

— レシピの考案に必要な情報などは、どんなふうに集めているのですか。

宮崎♣ 私の場合、いちばん大切にしているのは人間関係です。生徒さんとも、先生と生徒という上下の関係でなく、お互いに情報提供し合おう、と。あと、食に携わる方との交流はとても大事だな、と。人との出会い、それが食材との出会いにつながっています。
ただの情報ならインターネット上に氾濫しているし、いくらでも簡単に手に入るんです。でも、それって色がない無機質な情報なので、人間的な感覚が伝わってこないんですね。でも、人と直接、楽しいこと、おいしいものの話をしていると、「この間、こういうものを知ったんだけどいいですよ」など、生きた情報が入ってくる。自分の信頼している人の感性というフィルターを通した情報だから、本当に役に立ちますね。
そのうえで、机上の勉強も欠かしません。入ってきた情報を整理するための理論的、科学的な知識がないと、情報を取捨選択することができませんから。私はみなさんに発信する立場だから人よりもたくさん勉強しなきゃいけないんだけど、ふつうの主婦であっても家庭の食を預かる立場として、ある程度は勉強をして、食の安心安全について、食材の選び方など、基本的な知識を身につけておいたほうがいいと思っています。勉強は大事です。

最近、流行りのチーズ「ブッラータ」を使ってトマトと合わせ、カプレーゼに。「モッツァレラチーズに似ているけれど、よりクリーミーでコクがあっておいしいの。まだ日本に入って間もないので、なかなか手に入りにくいけれど、おすすめよ」
最近、流行りのチーズ「ブッラータ」を使ってトマトと合わせ、カプレーゼに。「モッツァレラチーズに似ているけれど、よりクリーミーでコクがあっておいしいの。まだ日本に入って間もないので、なかなか手に入りにくいけれど、おすすめよ」

— 近ごろは、スローフードについての学びを深めていらっしゃるとか。

宮崎♣ スローフードとは、1986年にイタリアのカルロ・ペトリーニによって提唱された考え方で、土地の伝統的な食文化や食材を見直そうというものです。
そのスローフードに出会ったきっかけというのが、4~5年前、料理の仕事とはまったく関係なく、何か趣味を持ちたいなという軽い気持ちで、イタリア語を習い始めたんですね。そのイタリア語の先生に「実は料理を教えている」と話をしたら、「食材はどこで買っているの」とたずねられたんです。で、「明治屋さんなど信頼できるスーパーマーケットで買っている。値段は高いけれど、品質に間違いはないので」と答えたら、「料理を教えているのに、スーパーマーケットで買うだけだなんて物足りなくない?」「イタリア人は、もっと食材を追求するよ」と。そこで、スローフードの考え方を知り、興味をもったんです。

作り手の顔が見える食材を積極的に選択

— NPOスローフードジャパンの会員になったのですね。

宮崎♣ ええ。スローフードジャパンの全国支部のうち、食材の生産者の数が多いという理由で北海道の支部に参加し、漁師さん、酪農家、チーズ工場などさまざまな生産者の方の話を聞く機会を得ました。一時期、北海道には年間40回ほども通っていたんですよ。

— 学んだことで、何を得ましたか。

「オリーブオイルも種類によって味が全然違うの。奥が深いのよー」。カプレーゼにオリーブオイルをまわしかけながら。
「オリーブオイルも種類によって味が全然違うの。奥が深いのよー」。カプレーゼにオリーブオイルをまわしかけながら。

宮崎♣ 食材に対する考え方が大きく変わりましたね。食材の生産者の情熱とか思いが込められているものは、やはり味が全然違います。やっぱり最終的には人なんだな、と。
それ以来、料理教室でもできるだけ作り手の顔が見えるような食材を選び、紹介するようにしています。おいしい! と言われると、私がまとめて一括購入し、みなさんにお分けすることもあります。
また、北海道をメインに勉強していくうちに、東京地元の食材にも目を向けてみようと、いまはそちらの勉強にも取り組んでいます。東京だって消費地というだけでなく、農家だってあるし、東京湾だってあるんです。

— 東京でいうと、たとえば、どのような食材がおすすめですか。

宮崎♣ そうですね。たとえば、大根。市場には、大量生産できてコストがかからない青首大根しか並んでいないですけど、東京には昔から亀戸大根、練馬大根、大蔵大根といったそれぞれ全然違う特徴をもった大根があるんです。亀戸大根はかぶと大根のかけ合わせみたいなイメージで、火の通りが早くて生でも食べられる。だから、鍋でさっとゆでて食べたりするのがおいしい。練馬大根は、水分が少なめなので、沢庵にするのにいいし、乾燥させたり水っぽくない料理に向いています。そして、大蔵大根は、煮崩れないので、おでんやふろふき大根など長時間、煮込む料理におすすめです。

料理だけでなく、たくさんの情報を得られる料理教室をめざす

「洋風の料理のときは、テーブルの上が平板になってしまいがち。こうして高さを出すと、テーブルの上が華やかになります」。テーブルコーディネートテクも伝授。
「洋風の料理のときは、テーブルの上が平板になってしまいがち。こうして高さを出すと、テーブルの上が華やかになります」。テーブルコーディネートテクも伝授。

— たくさんの知識をおもちですね。

宮崎♣ 私がめざしているのは、私が料理をつくるのを見ていただいている1時間半をいかに短く感じさせるか。私が黙っていると、退屈でしょ。常に意識をこちらに向けて集中してもらうためには、話題を山のようにもっていなければ、と。
食材の話はもちろん、最近は食文化の話も多いですね。たとえば、今月のメニューにある「うなぎとそばの上用蒸し」。江戸時代の前期、そばはせいろで蒸していたんですね。鋳物の鍋しかなく、ゆでると金臭くなってしまうので、当時はゆでる料理ってなかったんです。それをいまに引き継いで、懐石料理屋などで伝統的な蒸しそばを出しているので、それを家庭的にアレンジしてみましょう、というのがこのレシピ。ちなみに、おそば屋さんでそばを「せいろ」というのは、かつてそばをせいろで蒸していた時代の名残なんですよ――と、たとえばこんな話を料理をつくりながら、ずっとトークしています。

— 使っていらっしゃる食器もすてきです。

鈴木♣ 料理の盛り付け方や使い方によって、同じ食器でも全然違う食器に見せるようなテクニックもお伝えしていますね。食器を新しく買うなら、こんな形、こんな大きさがいいよ、というようなアドバイスも。ちなみに、和洋中使えて、登場回数が多いのはオーバル型。加えて、ベースが白のものは使いやすいです。

— 料理だけでなく、たくさんの学びが得られる盛りだくさんな料理教室なんですね。人がたくさん集まるのもわかるような気がします。今日はすてきなお話をどうもありがとうございました。

First Posted : 2014.9.8 on "clover&"

PROFILE

宮崎 里恵  [みやざき りえ]

青山学院文学部英米文学科卒。料理好きから料理研究家の助手やプロの料理人に師事し研鑽を積む。1992年、自宅で料理教室を開き、現在に至る。良い食材を求めて生産地を訪問し、生産者との交流を大切にしている。また、地産地消のコンセプトに基づき、江戸東京伝統野菜の普及やレシピの開発、在来種の食材の普及などの活動もしている。

http://m-rie.com


writer’s profile

鈴木麻由美
女性のライフスタイル全般および育児・保育・教育関係を中心に取材・執筆。

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