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vol.30

 少女は自転車にのって 上原千都世
あらすじ
サウジアラビアに住む10歳の少女ワジダ。おてんばなワジダは、男友だちと競争するため、ママに自転車をねだります。でも「男の子と遊ぶこと」にも「女の子が自転車に乗ること」にもママはいい顔をしません。自分でお金を工面しようとするワジダでしたが、なかなかお金は貯まりません。そんなとき、小学校でコーランの暗唱大会が開催されることに。優勝して賞金を手に入れようと、ワジダは苦手なコーランを懸命に勉強、大会に臨みます。

厳格な宗教戒律によって女性の行動が制限されているサウジアラビアを舞台に、「自転車に乗る」という夢を叶えるために奮闘する少女の姿が描かれています。

結婚前の男女交際、女性の外出先での肌の露出や車の運転が禁じられるこの国では「自転車に乗る」「幼なじみの男の子と遊ぶ」という、日本の子供なら当たり前にできることも、堂々とできない。女の子の友だち同士で声を出して笑っただけで先生に厳しくたしなめられる、といったシーンが何度も登場します。そんな厳しさの中でも、負けず嫌いで行動力のあるワジダはたくましい。「やりたいことはやりたい!」という、子供らしい気持ちを抑えないワジダは、先生に目をつけられてもあの手この手で自転車を手にするために奔走します。

そんな折、開催されることになったコーランの暗唱大会。自転車が買える額の賞金がもらえることを知ったワジダは猛練習を開始します。努力が実りワジダは優勝! でも「賞金で自転車を買いたい」と会場で宣言した途端、先生から非難を浴び賞金をもらえなくなってしまいます。悔しい思いでいっぱいのワジダですが、思いがけない形で自転車を手にすることになるのです。

一夫多妻制に振り回される、ワジダのママの苦悩もリアルに描かれています。「あなたは世界一、幸せになって」というママのセリフには、押さえつけられた社会で生きる女性として、母としての切実な想いが感じ取れます。

といっても映画は社会問題を声高に訴える重い空気は一切なく、ワジダのチャレンジを微笑ましい気持ちで応援したくなってしまう爽やかなドラマです。サウジアラビアにはなじみがなく、敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、異世界の女性の生活と想いが、私たち日本人にもわかりやすく描かれています。たくさんの女性に見てもらいたい作品です。

First Posted : 2015.9.29 on "clover&"

作品情報
監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド/リーム・アブドゥラ
〔2012年/サウジアラビア=ドイツ/1時間37分〕

 

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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