vol.19
スタンリーのお弁当箱 上原千都世インドの都市、ムンバイの小学校。4年生のスタンリーはユーモア抜群、お話を作るのが得意でクラスの人気者です。家の事情でお弁当を持って来ることができないスタンリーに、クラスメートたちはお弁当を分けてあげることに。ところが食いしん坊の国語教師ヴァルマーが「弁当を持たないヤツは学校に来る資格はない!」と叱りつけ、スタンリーは学校を休むようになってしまいます。
インドの小学校を舞台にした、お弁当をめぐるキッズ・ムービー。学校にお弁当を持って来れない男の子スタンリーと、彼を応援するクラスメートとの友情、そして横暴な教師とのお弁当攻防戦を描いています。
子どもたちが楽しみにしているお弁当タイム。でもスタンリーは、教室をそっと抜け出し水道水を飲んで空腹をガマンしています。そんなスタンリーを見かねて、クラスメートたちは自分のお弁当をシェアしてあげるのですが、食い意地のはった国語教師ヴァルマーが生徒たちのお弁当に手を出し、自分の行動を棚にあげてスタンリーを「人の食べ物をあさるネズミ」呼ばわり、学校に来るなと怒鳴りつけるのです。
あまりにも理不尽なヴァルマーが腹立たしいのですが、悪役が憎らしいゆえに、クラスメートの「友だちを想う気持ち」がよりいっそう伝わってきます。ヴァルマーとは正反対の、女性英語教師の優しさあふれる対応にも救われます。そして4段重ねのお弁当、カレーやナン、野菜たっぷりのおかずもおいしそう! お弁当箱からインドの食や家庭事情、教育事情が垣間みえます。
表現力豊かなスタンリーは、友だちのはからいでコンサートに出演することになったり、お弁当を持って登校することができたりで、めでたしめでたし……なのですが、実はスタンリーにはある秘密が。最後まで「本当のこと」を友だちにも先生にも打ち明けず、明るくふるまうスタンリーのけなげさに思わず涙してしまいます。
少しネタバレになりますが、この映画の監督(実はいじわる教師ヴァルマーを演じている)は「インドの就労児童はおよそ1200万人、家事労働を含めると5000万以上いる。そのようなインドの現状も知って欲しくてこの映画を作ったのです」と語っています。お弁当を作ってくれる人がいる。学校に行ける。日本では当たり前のことが、こんなにも幸せなのだということ。私たちの日常にある幸せに気づいてハッとしながら、映画を通して世界を知ることができるのです。
First Posted : 2015.4.7 on "clover&"