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vol.18

 酒井家のしあわせ 上原千都世
あらすじ
関西のとある田舎町。酒井家は中学2年の次雄(つぐお)と妹、両親の4人家族です。母は再婚で、10歳離れた妹は父親違い。複雑な家庭環境に、次雄はいつもモヤモヤした気持ちを抱えています。口うるさい母に反発し、継父の正和との関係も何だかぎこちない。そんなある日、正和が“好きな男ができた”と言って家を出て行ってしまいます。唖然とする次雄ですが、正和は実はある秘密を抱えており……。

多感な思春期まっただ中、14歳の少年の目を通して、少し複雑な事情を抱えた“酒井家”の日常を描く、切なくもあたたかいホームドラマです。

悪気はないけど母についぞんざいな態度をとってしまう中学生、次雄。母、照美はそんな反抗期の息子をもてあまし気味。血のつながらない父、正和は息子と適度な距離感を保っているつもりだけれど、会話はなかなか弾みません。次雄の誕生日、家族で外食に行くはずが主役である次雄は友人の家でご飯、夫は残業で帰れず、照美はやるせなさと諦めを感じてため息……。「子どもが成長した家庭あるある」な日常の積み重ねがとてもリアルです。親になった今、母子どちらの気持ちもわかるだけに、胸がチクチクする場面がたくさん登場します。

その酒井家で、いつも飄々としていた父、正和が“男”を作って家出するという事件が勃発。「親を選べたらよかったのに!」と次雄は憤りを母、照美にぶつけます。でも「大人の都合で振り回されていた」と思っていた次雄が、父が出て行った本当の理由、母の本当の気持ちなど「優しい大人のウソ」を知り、大人への階段を一歩上っていくのです。

誰よりも家族のことを大切に思っているのにうまく言葉にできず、気持ちがスレ違ってしまう。“じれったいけど愛おしい”家族の姿に思わずしみじみ。反抗期の息子の対応と日々の生活に精一杯で、笑うことも忘れていた照美がラストで見せる笑顔が心に残ります。
思わず笑っちゃうのが“ザ・思春期男子”な生態描写。くだらないネタに大ウケ、同級生女子の接近にドキドキ……。小学校高学年~中学生の息子を眺めて、昔は可愛かったのになぁ、なんて嘆いている「男子のお母さん」には特に観ていただきたい。と個人的には思います。

First Posted : 2015.3.24 on "clover&"

作品情報
監督・脚本:呉美保
出演:森田直幸/ユースケ・サンタマリア/友近/谷村美月/濱田マリ
〔2006年/日本/1時間42分〕

 

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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