vol.17
リトル・ダンサー 上原千都世不況にあえぐイギリス北部の炭鉱町。11歳の少年ビリーは母を亡くした後、炭鉱労働者の父と兄、祖母と暮らしています。ある日、ビリーの通うボクシング教室の一角にバレエ教室が移動してきます。踊りたい気持ちを抑えられないビリーは、家族に内緒でバレエ教室に通うことに。「男がバレエなんて!」と父も兄も大反対。しかしクリスマスの夜、ビリーの才能を目の当たりにした父は息子の夢を応援するため、ある辛い決断をするのでした……。
バレエに魅せられた少年が、家族の反対や貧困といった環境のハンデを乗り越えて夢を叶えるまでを描いた物語です。大規模な炭鉱ストライキが起こった1984年、サッチャー政権下のイギリスが時代背景で、ビリーはストライキ闘争中の父と兄の代わりに、認知症気味のおばあちゃんの世話をしています。
父に強制されたボクシングが苦手なビリーは、ふらふらと吸い寄せられるようにバレエ教室へ。そして女子の中で紅一点ならぬ“黒一点”としてバレエのレッスンに参加することに。いち早くビリーの才能を見出した女性教師と特別レッスンも開始、ビリーはバレエにのめりこんでいきます。
こっそり通っていたことがバレて「男ならボクシングやサッカーを!」「バレエなんてお遊びだ」と父も兄も大激怒。でも一度火がついた情熱の炎は大きくなるばかり。トイレや部屋で隠れてピルエット(ターン)の練習。赤レンガの塀の上でジャンプ! 海の見える坂道でダンス! どのシーンにも「踊りたい!」という、ビリーのほとばしる気持ちが弾けています。怒りに近い熱い想いを父にぶつけるクリスマス深夜の体育館でのシーンは圧巻です。
オーディションで、バレエに惹かれた理由を聞かれてもビリーは答えられません。本当に好きなことって理由はいらないんですよね。「踊っているときは、何もかも忘れて自分が消えてしまう」というセリフが印象的です。そんなビリーを見て、ストライキ中の仲間を裏切ることになるかもしれなくても、プライドを捨ててでも息子の夢を叶えてやりたい、と気持ちを変化させていく父の姿に胸がいっぱいになってしまいます。
湿っぽくならず気持ちよく泣かされる中、夢中になれるものを見つけること、夢を応援することの大切さが伝わってくる作品です。ビリーを慕う同級生(男)とのやりとりなどユーモラスな描写もたくさん。「白鳥の湖」などのバレエ音楽のほか、懐かしい80年代ロックも効果的に使われていて、昭和世代にはたまりません。
First Posted : 2015.3.10 on "clover&"