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vol.16

 大統領の料理人 上原千都世
あらすじ
片田舎で小さなレストランと農場を営んでいた中年女性オルタンス・ラボリは、ある日突然、三ツ星レストランのシェフ、ジョエル・ロブションの推薦でミッテラン大統領のプライベート・シェフに任命されます。古株の男性料理人たちの嫉妬や嫌がらせにも負けず、給仕長や助手のサポートを得ながら工夫を重ね、大統領からも厚い信頼を得るようになるオルタンス。ところが大統領の体調管理や経費削減など締め付けが厳しくなり、オルタンスは自由に料理を作れなくなってしまいます。

突然、大統領のプライベートキッチンを任されることになった女性シェフの奮闘を描いた物語。フランス大統領の官邸史上、初めての女性料理人に抜擢された実在の女性がモデルとなっています。

母や祖母から習った素朴な料理ばかり作ってきた自分が、なぜ大統領官邸の、しかも男性ばかりの厨房に呼ばれたのか? 分刻みで公務をこなす大統領には直接、好みの味も聞けず、「空になったお皿」を通してしか満足してもらえたかどうかわかりません。ようやく会えた大統領から本音を直接聞かされ、自分が呼ばれた理由をようやく理解します。

格式ばった料理、凝りすぎた料理にうんざりしていた大統領が求めていたのは「おばあちゃんの味」「懐かしい味」「素材そのものの味を活かしたシンプルな料理」。そんな大統領のために、オルタンスは地元の農場から最高の食材を集めて腕をふるいます。そして「子ども時代の記憶をよみがえらせてくれた」と大統領の厚い信頼を得るようになっていくのです。

けれど官邸の方針が変わり、思うように料理ができなくなったオルタンスは、長い立ち仕事の末、膝も壊してしまい2年間務めた厨房を去ることに。男性料理人たちは最後までオルタンスをのけ者扱いで「女性に嫉妬する男性は器がちっちゃいなあ」なんて思ってしまいます。
映画は官邸を去った後、南極基地の料理人になりイキイキと料理するオルタンスと官邸時代が交互に描かれています。セリフにはありませんが、大統領の好みの料理をひとつ作るにもさまざまな部署の許可をとらなければならない官邸での仕事に辟易していた彼女は、「食べる人の“美味しい”の声と笑顔」がすぐわかる料理が作りたかったのではないでしょうか。

単純なサクセスストーリーではないので、ほろ苦い気持ちにもなりますが、登場する数々の料理がとっても美味しそう! チリメンキャベツのサーモンはさみ蒸し、牛ヒレ肉のパイ包み、ベリーが詰まったタルト……すごく凝った高級フランス料理に見えるけれど、あれが「フランスのおばあちゃんの味」なんですね。

First Posted : 2015.2.24 on "clover&"

作品情報
監督・脚本:クリスチャン・ヴァンサン
出演:カトリーヌ・フロ/ジャン・ドルメッソン/イポリット・ジラルド/アルチュール・デュポン
〔2012年/フランス/1時間35分〕

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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