vol.15
リトル・フォレスト「夏・秋」 「冬・春」
上原千都世東北地方のとある村の小さな集落。近所にはスーパーもコンビニもありません。一度は街に出たものの、自分の居場所を見つけられず故郷に戻ってきたいち子は、ひとりで暮らしながら、稲を育て畑仕事をし、周りの野山で採った季節の食材で食事を作っています。母は数年前に突然失踪。そんないち子は、幼ななじみのきっこやユウ太、周囲の人々に見守られながら、自然と向き合う日々の中で、自分の人生を見つめ直していきます。
ひとりの女の子が、自給自足の生活をしながら生きる力を蓄えていく物語です。同名タイトルのコミックが原作。映画は春夏秋冬の4部作で、「夏・秋」、「冬・春」、としてまとめられています。
スーパーまでは自転車で30分。夏は湿気がすごいし、冬は雪で外を歩くのもひと苦労。手をかけた農作物も天候に左右されダメになることも。そんな村の自然といち子の過ごす夏と秋を描いた「夏・秋」。自然の厳しさ、不便さもきちんと描かれていて、そこには「スローライフは素敵」「本来はこういう生活をすべき」という型どおりの単純なメッセージはありません。移ろう季節の美しさ、自然の恵みの大切さを素直に感じさせてくれます。
「言葉は当てにならないけれど、私の体が感じたことなら信じられる」(いち子)。「自分自身でやったこと、その中で感じたこと、そういう経験や言葉をたくさん持ってる人を尊敬するし信用できる」(ユウ太)。どこかで聞いた知識でわかった気になりがちな自分に投げかけられたようなセリフに、思わずドキッとします。
そして「冬・春」では、失踪していた母のこと、その事実をいち子がどうやって受け止め生きてきたのか、本当の自分の居場所を見つけるまでが描かれます。突然消えた母への複雑な思いも消化できない、それでも農作業や料理をするたび思い出すのは母の背中。そして「街から逃げてきた」という事実。自分の人生に向き合い切れていない自分をユウ太に指摘され、いち子は自分の“これから”を考え始めます。
命をいただくこと、体験すること、自分と向き合うこと。毎日忙しくしていると忘れてしまいがちなことに、ハッと気づかせてくれます。
そして全編通して食べ物が本当に美味しそう! イワナの塩焼き、くるみごはん、甘酒とかぼちゃの3色ケーキ、キャベツのかきあげ。旬の食材を使った料理が次々登場します。ストーブで焼いたホクホクの焼き芋を割った瞬間の湯気、山菜の天ぷらをジュワ―っと揚げる音……。五感が刺激され、目も心も満たされる作品です。「冬・春」は2月14日(土)より公開。DVD「夏・秋」もチェックして、ぜひ映画館に足を運んでみてください。
First Posted : 2015.2.10 on "clover&"