vol.29
天空の草原のナンサ 上原千都世モンゴル遊牧民の6歳の娘ナンサは、幼い妹と弟の面倒をみたり家の手伝いをしたりしながら草原で暮らしています。ある日、一匹の犬を拾ったナンサ。犬を飼うことをお父さんに反対されますが“ツォーホル”と名前をつけて、こっそり飼うことにします。そのツォーホルと草原で迷子になってしまったナンサは、あるおばあさんと出会い、そのおばあさんの語る不思議な「黄色い犬の話」に惹きこまれていくのでした。
6歳の少女ナンサを主人公にして、モンゴルの草原を移動しながら暮らす遊牧民の生活を描いています。
映画は家族と離れて町の小学校に通っていたナンサが、両親の元に戻ってきた場面から始まります。真っ赤なリンゴほっぺの少女ナンサは、たった6歳ですが、赤ちゃんの世話も大人のお手伝いも何でもこなします。ナンサに妹や弟、子どもたちの素朴な可愛さに癒されます。
放牧やチーズ作り、羊の皮を剥ぐ作業、燃料となる牛のフン拾い、移動住居ゲルの解体シーンなど、教科書や本だけではわからない、思わず見入ってしまう描写ばかり。移動時に小さな赤ちゃんを落としてしまい、あわやハゲタカに狙われそうになる、遊牧民だからこそのスリリングなシーンもあります。世界には自分の知らないことがまだまだあるんだなあ、と改めて気づかされます。
「人が生まれるということは、米粒がこの針の先に乗るくらい難しいこと」。ナンサが出会ったおばあさんの話から、遊牧民の心の持ち方、深い知恵が感じ取れます。自然を人間の都合で変えていくのではなく、人間が自然に合わせすべてのことを受け入れていく。映画が公開された2005年当時の監督インタビューによると、モンゴルも急激に近代化が進み、遊牧民も減っているそうです。時代とともに貴重な存在になりつつある遊牧民の「自然とともに暮らす生活スタイル」から、考えさせられることはたくさんあります。
どこまでも続く草原、連なる山々、広い空と雲。モンゴルの雄大な自然の中に流れる、ゆるりとした空気を感じながら見ていただきたい映画です。ちなみに登場するのは本物の遊牧民の一家。モンゴル出身の女性監督がスタッフとともに、ゲルで一緒に寝泊まりしながら自然な演技や表情を引き出していったそうです。犬のツォーホルは、その可愛さと演技(?)が評判を呼び、カンヌ国際映画祭で「パルムドック賞」を受賞しています。
First Posted : 2015.9.8 on "clover&"