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vol.28

 茄子 アンダルシアの夏 上原千都世
あらすじ
スペイン、アンダルシア地方。そこでは世界三大自転車レースのひとつ“ブエルタ・ア・エスパーニャ”が行われていました。ペペはチームの一員としてこのレースに参加していましたが、レースの最中にスポンサーから解雇を告げられてしまいます。やがてレース集団はペペの生まれ育った村を通過。その日、村の教会ではペペの兄アンヘルとペペの恋人だったカルメンの結婚式がとり行われていました。複雑な想いを振り払うようにペダルを漕ぐペペ。ところが道に突然ネコが飛び出し、レースは予想外の展開に……!

毎年9月にスペインで開催、3週間をかけて3000キロ以上を走る自転車ロードレース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」のラストステージを舞台に、故郷を捨てたひとりの自転車レーサーの葛藤を描く、疾走感あふれるアニメーションです。

ここで描かれるロードレースは9人のチーム編成で、ひとりのエースを勝たせるために他の8人の“アシスト”がサポートをします。主人公のペペはそのアシストとしてエースを支える脇役的存在。ところが突然のアクシデントで、急きょエース役を任されることになります。

故郷の村では兄と元恋人カルメンの結婚式のまっ最中。近づくにつれ、トップレーサーだった兄や元恋人、そして捨てた故郷の苦い思い出がペペの脳裏に蘇ります。解雇通告などすべての不安や葛藤をバネにして、プロとしての意地を見せるペペ。「プロというのは仕事以上のものをやっちまうヤツだ。そうでなくちゃ生まれた土地から出ていけない。オレは遠くへ行きたいんだ!」

逆風や砂嵐、峠越え、そして酷暑の中の過酷なレース。パンクや転倒。スポンサーの意向でレース展開を勝手に指示されたり、解雇になったり、プロのロードレーサーの厳しさもリアルに描かれています。そして追いつ追われつの駆け引き、市街地でのコーナリング、集団が一気に押し寄せるゴールスプリントのクライマックスシーンなど、手に汗握る緊迫感と疾走感がたまりません。思わず「行けー!」と画面に向かって叫んでしまいます。

自転車レースに興味がないから、とスルーしてしまうのはもったいない作品。とはいえ少しだけ知識を入れてから観るとよりいっそう楽しめます。暑くてうだるような日が続いても、仕事や人間関係でちょっと凹んでも「もうちょっとがんばってみようかな」と前向きな気持ちにさせてくれます。

First Posted : 2015.8.25 on "clover&"

作品情報
監督・脚本:高坂希太郎 原作:黒田硫黄
声の出演:大泉洋/小池栄子/筧利夫/平田広明/平野稔
〔2003年/日本/47分〕

 

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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