
vol.26
人生の特等席 上原千都世メジャーリーグの名スカウトマンとして何十年も腕を鳴らしてきたガス。でも老いには勝てず視力が衰え始めてきました。スカウトマンにとって視力低下は致命的で、球団もガスを引退させようと画策。そんなガスを心配して、エリート弁護士の娘ミッキーがスカウト現場にやってきます。父にわだかまりを抱えている娘ミッキーと、頑固オヤジのガスは、本当はお互いのことを想っているのに会えばケンカばかり。一緒に過ごすうちに心の距離が近くなっていくふたりですが、実はガスはミッキーに隠していた過去があり……。
頑固一徹のベテランスカウトマンと、キャリアウーマンの娘。長年、気持ちがすれ違っていた親子が、野球を通して再び絆を取り戻していく様子を描いています。
球界最高のスカウトマンと言われ、数多くの才能を発掘してきたガスですが、緑内障を患っていることが発覚。頑固なガスは医者に治療を勧められても全く耳を貸しません。そんな彼を心配した長年の友人が、仕事中のガスの元へ、ガスのひとり娘ミッキーを送り込みます。6歳で母を亡くして以来、父に愛情をかけてもらえなかったと思い込んでいるミッキー。弁護士としての出世につながる大きな訴訟を前に忙しい中、最初はしぶしぶ父に会いに来ます。一方のガスも娘に対して憎まれ口ばかり。ミッキーは人を全く頼ろうとしない父に諦めといら立ちと寂しさを覚えます。
そんな父と娘が、野球を通して心を通わせていきます。ミッキーは子どもの頃から父の仕事を見ていたため実は野球に詳しく、いつしか父の有能なパートナーとなっていきます。幼い頃に欲しかった親子の時間。ミッキーはキャリアアップのチャンスを逃すことになっても、父との時間を優先させます。
家族だからこそ愛情を素直に表現できない。そんな父と娘の姿が何ともはがゆい。近づいたり、また反発しあったり。そんなふたりの関係から、自分と家族との関係を考えさせられます。
大型新人を巡るスカウト合戦も見どころです。パソコンが使えず“時代遅れ”と言われても、自分の目で見て耳でボールの音を聴き、長年の経験と自分の直感を信じて判断するガス。数値化されたデータに頼り、実際の選手を見ないで判断してしまう若いスカウトマン。わかりやすすぎる対比ではありますが、ついデジタルツールに頼りがちな現代への警鐘も読み取れます。
いい父親になれなかったという娘への負い目があり「俺の人生は三等席」と言う不器用な父の生き方、そして父と過ごす時間こそが「人生の特等席」だと言う娘の言葉が心に響きます。人間の良心を感じられる、爽やかな後味が残る作品です。
First Posted : 2015.7.28 on "clover&"