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vol.25

 チルソクの夏 上原千都世
あらすじ
1977年、7月。山口県下関の高校生、郁子は、姉妹都市である釜山(プサン)で開催される、親善陸上競技大会に出場することに。そこで同じ高跳び競技に出場していた釜山の高校生、安大豪(アン・テホ)に出会います。お互い淡い恋心を抱き“来年のチルソク(七夕)に再会しよう”と約束を交わし、文通を開始。でもまだ日本と韓国の関係は良いとはいえず、お互いの親からは反対されてしまいます。さて1年後の七夕、ふたりは織姫と彦星のように無事に再会できるのでしょうか?

1977年の下関と釜山を舞台に、陸上部の女子高生の初々しい恋を描いた作品です。チルソク、とは七夕の韓国語読みになります。

姉妹都市、釜山で開催された親善大会の夜。戒厳令で夜間外出が禁じられる中、危険を冒して会いに来た「アン君」と郁子のベランダ越しのデートは、まるで「ロミオとジュリエット」。メルアド交換ならぬ、住所交換はトイレットペーパーに手書きです。1年後の七夕に開催される大会での再会を誓い、帰国後は手紙をやりとり。親友たちとハングルも学びます。携帯もメールもなかった時代の高校生の恋は、現代よりずっと手間と知恵が必要でした。

親友たちが、郁子の初めての恋を盛り上げようとする姿が微笑ましい。一方で、韓国と日本がまだ“近くて遠い隣の国”だった時代、わだかまりを抱える大人たちからこの恋は応援してもらえません。でも10代のまっすぐな気持ちは、国境も言葉も歴史も関係ありません。1年後にふたりは再会を果たします。大学入試、兵役が待っているアン君と次に会えるのは4年後なのに、郁子は見送りに間に合わず……。

手をつなぐだけでドキドキしてしまうような、70年代の高校生の恋。70~80年代に中・高校生だった方は郁子と一緒に、学生時代にタイムスリップしてしまうことでしょう。開襟シャツに膝丈スカートの制服、田舎の学校のグラウンド、真夏の部活の練習、部室でのたわいないおしゃべり、部活帰りの友達との買い食い。日本語の歌を歌うことが禁止されていた韓国人のアン君が郁子のために歌う「なごり雪」のほか、「横須賀ストーリー」「カルメン’77」など70年代歌謡曲が効果的に使われています。

何もかもが本当に懐かしい! 七夕にあわせて観たい、清々しい青春映画です。

First Posted : 2015.7.7 on "clover&"

作品情報
監督・脚本:佐々部清
出演:水谷妃里/上野樹里/桂亜沙美/三村恭代/淳評/山本譲二/高樹澪
〔2003年/日本/1時間54分〕

 

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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