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vol.14

 武士の家計簿 上原千都世
あらすじ
天保の世、金沢。直之は、算用者(さんようもの=経理担当)として、代々加賀藩の財政に携わってきた猪山家(いのやまけ)の八代目です。帳簿の不正を見つけ異例の出世を果たした直之ですが、出世するほど行事や武士の体面を保つための維持費がかさむのが武家社会。4歳になった息子のお披露目行事「袴着(はかまぎ)の祝い」を目前に、猪山家の家計が窮地に陥っていることを知ります。そこで直之は、家財道具を処分して借金の返済に充てることに。猪山家の人々は一丸となって倹約生活に励みます。

江戸時代末期の加賀藩、今の石川県・金沢を舞台に、そろばんひとつで藩や家の家計を守ったひとりの下級武士と、彼を支えた妻や家族の物語です。剣の腕はからきしだけど、そろばんの腕は天才的。数字が合わないのがガマンできず、ついたあだ名が「そろばんバカ」。自分の婚礼の日にも婚礼費用を記帳するためそろばんをはじいてしまう、そんな真面目一本やりな主人公、直之が、傾いた家計を救うべく家族を巻き込み「家計立て直し一大プロジェクト」を進めていきます。

出世をしても収入はそれほど増えないのに、武士としての体面を保つためには大きな屋敷も使用人も必要です。子どもの誕生祝いのお返し、息子のお披露目行事など、武士は何かと物入り。膨らんだ借金を返すため「いま必要ないもの」を全部出して処分するのですが、「これは高価なものだし……」「いつかまた着る!」と使わない高級品や着物に固執する直之の両親の姿に、なかなか捨てられないわが身を振り返って思わず苦笑してしまいます。

最低限のモノで暮らす、旬の食べ物をまるごと工夫して食べる、行事もアイデアで予算を抑える、など「お金がないなら工夫する」「知恵を絞る」ことの大切さが身に沁みます。「貧乏と思えば辛くなりますが、工夫だと思えば面白いです」と、ユーモアを忘れず、おおらかに夫を支える妻の姿にも心が温まります。

直之は、小さな息子も甘やかさず、そろばんに礼儀作法など世の中を生きていく術を伝えていきます。厳し過ぎる父に息子は成長とともに反発もしますが、いざというときに自分を助けてくれたのは、やはり父の教えでした。多くを語らず、ときには憎まれ役になっても「大事なこと」を教えた直之。「父の背中」の歴史を感じさせるラスト近くのシーンでは、思わず涙がこぼれてしまいました。1年の初めの1月、家計について、「家を回す」ことについて考えながら、この映画を味わってみてはいかがでしょうか。

First Posted : 2015.1.27 on "clover&"

作品情報
監督:森田芳光 原作:磯田道史
出演:堺雅人/仲間由紀恵/松坂慶子/中村雅俊/草笛光子
〔2010年/日本/2時間9分〕

 

PROFILE

上原千都世

ライター、コラムニスト。
エンターテイメント情報誌「weeklyぴあ」映画担当を経てフリーに。エンタメ界での経歴、子育てなどの経験を活かして現在は「エンタメ・暮らし・子ども」などをキーワードに雑誌・書籍・web問わず執筆。「こども映画プラス」 「ウレぴあ総研」などに寄稿。

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