vol.9
フラガール 上原千都世昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。石炭から石油へ、急激なエネルギー転換の時代の波の中、町の危機を救うため、炭鉱から豊富に湧き出る温泉を利用した一大レジャー施設「ハワイアンセンター」建設計画が進められていました。そこに東京から呼ばれたのが、日本のトップ歌劇団SKD出身の平山まどか。ダンスの経験もない炭鉱町の娘たちをフラダンサーにする、という無謀な計画に呆れていたまどかですが、娘たちの抱える想いに触れ特訓を開始します。
スパリゾートハワイアンズの前身、常磐ハワイアンセンター誕生の実話を基に、炭鉱町の娘たちが様々な壁を乗り越え、フラダンサーとして華やかな舞台に立つまでを描いています。
踊りといえば盆踊り、ステップもろくに踏めなかった炭鉱町の田舎娘たちが、特訓を重ねるうちにどんどんダンスがうまくなり、プロのダンサーに成長していく姿にエールを送らずにはいられません。最初は全くやる気のなかったダンス教師も、指導の中で人を成長させる喜びに目覚めていきます。
長年、地域の生活を支えてきた仕事がなくなるかもしれない。そんな不安の中で必死に生きる炭鉱町の人々の苦悩や葛藤も描かれます。ハワイアンセンター建設反対派や、ダンスなんていかがわしい、と嫌悪感を抱く親との対立、うまく踊れない焦り、苦労を共にした仲間との別れ、初めての巡業では客と大ゲンカ、そして巡業途中の身内の不幸……。まどか先生も、実はしんどい過去を抱えてここにやってきたことも徐々に明かされます。
「どんなにつらいときでも笑うのがプロ」というまどか先生の言葉通り、涙も汗も笑顔の影に隠し、ステージを重ねるごとにプロの顔になっていく“炭鉱のフラガール”たち。そしてそのがんばりは、猛烈に反対していた、リーダー紀美子の母親の心にも届きます。何かに夢中になる、がんばる姿が人の心を動かしていく。後半はそんな優しくて切ない場面の連続で、ラストシーンまで私は泣きっぱなしでした。
娘の踊りに心を動かされた、紀美子の母が町の人々に訴えかけるセリフにも泣かされます。
「今まで仕事っつうのは歯くいしばって死ぬか生きるかでやるもんだと思ってた。だけどあんな風に、踊って人様に喜んでもらえる仕事があってもええんでねえか? オレはもう無理だけんど、あの子らなら、みんな笑顔で働ける、そんな新しい時代を作れるかもしれねえ」。
愛する土地や家族のために新しい時代を作った人々の物語は、とても力強くてあったかい。元気をいっぱいもらえます。
First Posted : 2014.11.11 on "clover&"