vol.33
アンコール!! 上原千都世ロンドン。72歳のアーサーは、近所でも有名なガンコじいさんです。息子との関係もギクシャクしており、笑顔を見せるのは最愛の妻にだけ。病弱だけど明るい性格の妻マリオンはロックやポップスを歌う合唱団“年金ズ”で歌うのが生きがいです。ところがマリオンのガンが再発。コンクール参加を控え、治療のため練習に参加できない妻の代わりにアーサーはしぶしぶ合唱団のメンバーになります。自分とは全く違う、ノリのいい合唱団の雰囲気にとまどうアーサーですが……。
無口でガンコ者の老人が、愛する妻のために、まったく乗り気でない合唱団に参加する中で少しずつ変わっていく物語です。性格も好みも正反対だけど、お互いを信頼し思いやる老夫婦のゆるぎない愛情にも胸が熱くなります。
アーサーは気難しく心配性。シングルファーザーの息子ジェームズとの間にも深い溝があります。一方、病弱だけど明るい妻のマリオンは老人合唱団で歌うことが生きがい。コンクールでステージに立つ、という夢を持っています。ロックやポップス、老人らしからぬ歌ばかり歌うちょっと変わった老人合唱団“年金ズ”。妻がそこに通うことにはあまりいい顔をしていなかったアーサーですが、ガンが再発し練習に行けなくなってしまった妻のたっての願いで、しぶしぶ合唱団に参加することになります。
そんなアーサーの心が動き始めたのは、コンクールの予選でもある野外コンサート。余命わずかのマリオンがソロでシンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ」を歌います。“悲しい目をしたあなた。希望を失わないで。あなたの本当の色が見える。だからあなたを愛している”。妻が、残していく夫への深い愛情を歌に乗せて伝える、とても素敵なシーンです。
マリオンが亡くなったあと、合唱団の若い女性講師エリザベスの応援もあり、歌う楽しさに目覚めていくアーサーですが、息子ジェームズにも歩み寄るもうまくいかず、やっぱり自分は変われないとガンコオヤジに逆戻り。でも勇気を出してついにステージに立ちます。夢を果たせず天国へ旅立った妻への想いがあふれるような歌声は、父へわだかまりを抱えていた息子の心も、アーサー自身の心もときほぐしていきます。
不器用な生き方しかできなかったガンコ老人のチャレンジに勇気をもらえます。人は何歳からでも変わることができる。そして歌って素晴らしい! 歌だから響いてくる言葉があります。人生につまずいたとき、自分の心の応援歌になってくれるような1本です。
First Posted : 2015.11.2 on "clover&"